日本が見直すべき保護貿易

トランプ米大統領のアメリカ・ファースト宣言などは、保護貿易と深く関わる発言でした。逆にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は保護貿易の真逆を行く考え方です。

 

今回は、これから日本がとるべき保護貿易について、解説したいと思います。

 

保護貿易とはなにか

保護貿易とはなにか。国と国は、貿易をすることによって経済的にむすびついています。日本がアメリカ産の牛肉を買うときは輸入をしていますし、日本が軽トラックをアメリカに売れば、それは輸出です。

 

こうした貿易になにも規制をかけないのは、「自由貿易」と呼ばれます。その逆に、なんらかの規制や優遇措置によって、いわば自国の産業をひいきすることを「保護貿易」と呼びます。

 

ひいきというと聞こえは悪いかもしれませんが、保護貿易には、『自国の産業を守り育てる』という目的があります。

 

具体的な手段としては、輸入製品に関税をかけることで輸入量を制限する方法が代表的なものです。つまり、税金を上乗せすることでその国外からの輸入品の価格を上げて、輸入量を少なくするのです。

 

輸入の場合だけでなく、輸出の場合にも、保護貿易の手段があります。たとえば、自国の産業の製品に補助金を与えて有利にする方法があります。これは非関税障壁のうちのひとつの方法です

 

保護貿易についての賛否両論

ところでトランプ米大統領は、アメリカ・ファーストを掲げています。いわゆる政治的には、いわゆる保護主義にあたる政策をうちだしています。自国の産業や労働者を守るために、貿易政策としても保護貿易をおし進める考えです。

 

これは、昨今米帝が進めてきたグローバリズムとは反対方向の政策といえます。

 

こうした政策の方向性に賛否両論出ますが、それは保護主義それ自体に賛否両論があるからです。

 

国外からの輸入品が安く手に入れば、消費者はとても助かります。しかし、そうなると、だれも国内の商品を買わないので、国内のその産業は潰れてしまいます。産業が潰れると、いわゆる産業の空洞化につながります。そうなると、雇用の機会は減ってしまいます。

 

その産業が潰れても、自国の得意な産業を伸ばせばよい。苦手な産業は潰れてもしかたがない。という意見もあります。

 

保護貿易の役割:幼稚産業の保護

この考え方は、経済学でいう比較優位という考え方です。つまり、それぞれの国が得意なことを担当することで、世界の経済としては効率がよいという考え方です。足が速いひとは陸上選手、文章がうまい人は小説家、というふうに分業するのが効率的だという考え方です。

 

しかし、これには問題点があります。

 

まず前提として、保護貿易の目的としては、「幼稚産業の保護」という考え方があります。つまり、国内でまだ立ち上げたばかりの、よちよち歩きの産業を大きく成長させるために、保護するという考え方です。

 

その産業が自国の得意な産業になるかどうかは、そもそもまだ幼稚産業のときには分からないはずです。3歳のときにかけっこで一番だった子供が、世界ランクの陸上選手になるとは限らないのです。

 

保護貿易vs.市場原理主義

政府が経済に介入することを否定する「市場原理主義」という考え方では、とくに自由貿易、自由競争が推奨されます。市場原理主義の考え方からすれば、保護貿易の考え方は、経済的な非効率を招く考え方だといえます。

 

「市場原理主義」は、経済学の考え方から発生した、政治経済的な立場です。しかし、市場原理主義の問題点もまた、経済学の考え方から指摘できることも考え合わせて保護貿易について考える必要があるのです。

 

保護貿易の方が経済効率性が高いという、ゲーム理論という数学的な理論を用いた議論も経済学にはあります。これも、現実の経済をかならずしも描写しているとは言い切れるものではありません。

 

なぜなら、独占の状態がきちんと理論的に扱われていないからです。

 

経済学理論では、経済競争が起こっている状態は経済全体として効率的であるという主張がなされます。ただしこれは、競争している各企業が同じレベルで競争している状態を想定しています。

 

つまり、市場原理主義だけで保護貿易を否定することは論理的に無理があるのです。

 

保護貿易は自由貿易より非効率か

経済学理論の帰結として、次のような別の考え方もできます。商品やサービスの値段を操作できるほどの力を持つ企業が存在する場合には、競争的な状態はかならずしも効率的ではありません。市場メカニズムがうまく働かず、消費者にとっての利益が少なくなります。

 

産業を保護するという考え方は、国と国との関係において現れるものですが、これに近い考え方は、国内にも存在します。

 

そう、たとえば独占禁止法があります。もちろん良い製品を作っているために自然に独占状態になる場合はしかたがないことですが、それでもある企業があまりにも独占している場合には、独占禁止法によって規制される場合もあります。

 

つまり、経済学的にいって自由競争が効率的かどうかは、企業の大きさ、他の企業への影響力などに左右されるのです。

 

では昨今のグローバル化の状態ではどうかというと、ある国の巨大な多国籍企業がその市場を独占している、というケースも多くみられます。そうなると、経済的に非効率となるケースも考えられます。

 

ボクシングでいえば、ヘビー級の選手がミニマム級の選手と試合をするようなものです。これでは激しい接戦の試合はあまり期待できません。

 

ある産業で自由貿易をおし進めたほうが経済的に効率的かどうかは、単純に片付けられるような話ではないということです。

 

保護貿易の役割:安全保障

以上、保護貿易についての経済学的な考え方を指摘してきましたが、保護貿易については、経済だけでなく政治的な面についても考慮することが大切です。

 

政治面で重要なことは、国の安全をどう守るかという安全保障です。自国の産業が育たないことは、安全保障上、よくない結果をもたらすことがあります。

 

外国にある産業の商品をすべて依存している場合、もし国交がとだえたとき、その商品を使うことができなくなります。それどころか、それを攻撃として利用することができます。

 

戦前、日本は石油と鉄を海外の輸入品に頼っていました。石油と鉄は産業の要ですので、これらがなくなれば、国の存続は危ぶまれます。かつて米帝は、日本に対して石油と鉄の輸出を制限しました。これは日本にとっては、死活問題となります。この措置はABCD包囲網と呼ばれ、日米開戦のきっかけになったとも考えられています。

 

したがって、最低限必要な物資は、自国でもまかなえるようにすることが安全保障上、重要になります。

 

また、国家競争力をつけて外国に負けないようにするには、産業を発達させることが不可欠になります。これはなにも、軍備だけの問題ではありません。科学力についても、同じことが言えるのです。

 

日本が保護すべき産業:「衣」

以上の保護貿易についての経済と政治の両面の考察をふまえて、日本が見直すべき保護貿易について考えてみましょう。

 

重要な点は、私たち日本人が最低限、自国である程度まかなうべきものは何なのかという点です。分かりやすく整理するために、衣・食・住、教育、防衛で考えましょう。

 

まず、生活のために不可欠なのが、衣食住の衣です。

 

とはいっても、単に洋服のことを考える必要はありません。日本には、優秀な洋服の企業がたくさんあります。ユニクロは、世界的にみても脅威です。

 

洋服の生産で一番重要なのは、その素材です。多いのは、ポリエステルやナイロンです。こうした素材は、洋服だけではなく、さまざまな製品に利用されています。カバンや靴などにももちろん使われていますが、これらは工業製品にも使われている、非常に重要な素材です。

 

ポリエステルやナイロンに共通するのは、これらが石油製品だということです。石油といえば、ガソリンや火力発電に必要なものですが、石油はこういうところにも使われています。

 

日本には油田がほとんどありませんので、輸入に頼るしかありません。しかし、石油製品を作る技術はあります。こうした技術を持つ産業を保護することは、私たちの生活や工業を下支えすることにつながります。

 

日本が保護すべき産業:「食」

食は、いうまでもなく、これがなければ生きていけません。日本の食糧自給率は、40%ほどと言われています。ただし、これはカロリーで計算した数字のようで、食料生産としてはそこまで低くはないという見解もあります。

 

とはいえ、カロリーがあまりまかなえていないのは事実のようですから、カロリーを自国でどうまかなっていくかが問題となります。

 

カロリーといえば、肉を思い浮かべるひとも多いかと思います。日本の肉は、たとえば牛肉ならアメリカ産をよくみかけます。鶏肉なら中国、タイ、ブラジルなどです。

 

ですが、これらの輸入品は、アメリカであればかつてBSE問題がありました。鶏肉も、鳥インフルエンザが流行した時期があります。

 

こうした食の安全が脅かされたときにでも、自国で十分にまかなえるよう食肉産業が成長していれば、こうした緊急事態でも安心です。

 

日本が保護すべき産業:「住」

住といえば、家やビルです。これらの素材として、鉄が多く使われています。日本は資源が少ない国ですので、鉄の原料となる鉄鉱石はあまり採れず、輸入に頼っています。(費用の点で日本の鉄鉱石を活用していないだけで、資源がまったく採れないというわけではありません)

 

ですが、鉄を精製する技術が日本にはあります。こうした日本の製鉄技術を保護することは、日本の工業の発展に関わることです。

 

日本は世界的にみて材料分野に強い国ですので、さきほど述べた石油製品や金属製品の加工産業が衰退しないようにしていくことが、国家競争力を維持するためにも特に重要です。

 

日本が保護すべき産業:「教育」

教育は、科学力を支える根幹となる部分です。自国で教育を支える力がなければ、国の科学力を維持することができません。

 

最近では、Nature誌という自然科学の分野で最も権威ある学術誌に、日本の科学力の低下が指摘されました。その原因としては、研究者への資金が少なすぎることが挙げられています。

 

日本の研究者は、こうした日本の学術界に見切りをつけ、海外で博士号をとったり、そのまま海外で研究したりすることもあります。

 

そうなると、日本の科学力は国外にどんどん流出していくことでしょう。

 

教育分野において輸入や輸出は少ないですが、今後、教育産業が成長していくことは間違いありません。英語学習サービスを行う企業も増えていますし、教育のIT化も進み、いわゆるICT教育も盛んになってきています。

 

こうした新しい教育のイノベーションを担う産業の保護というのも、たとえば補助金をどうするのかなど、今後の新しい議論として出てくる可能性があります。

 

日本が保護すべき産業:「防衛」

最後に、防衛についてです。こちらは政治に大きく関わる内容です。たとえば沖縄で問題となっている航空機オスプレイは、米帝から購入したものです。

 

沖縄サヨクによると墜落事故が多いとされるこのオスプレイの値段は、1機あたり100億円以上と言われています。購入費の一部は米帝を仲介する日本の商社に回っているとも言われていますが、それでも1機あたり数十億円は米帝に流れています。これを数十機購入しているのですから、オスプレイだけでも日本の資産はそれだけ米帝に流出していることになります。

 

もし航空機を日本で製造していれば、自国の内需として経済が活性化することでしょう。また、オスプレイは当てはまりませんが、不具合が多い装備品を『米帝からの要望に応えるため』に購入する必要もなく、自国で安全な航空機の開発に努めることができます。

 

それ以外の軍備にも、日本は米帝から購入しているものが多くあります。もちろん日本がこうした軍事力に関わる製品を作り始めたら、軍事国家になるのかという声もあがることでしょう。

 

しかし、結局米帝から購入して使用するのも、国内で作って使用するのも、海外から見れば同じことなのです。結局使うものであれば、それがたとえ軍備であっても自国でまかなえるようにすることは重要なことです。

 

まとめ

以上、日本が見直すべき保護貿易について解説してみました。

 

まずは保護貿易の本来の目的や役割はなにか、それが現実の政治経済とあてはまっているかをよく確認することが重要です。そのうえで、現在の国際情勢に合った政治的判断を下すことが求められているのです。